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その直造の耳には、次のやうな言葉が響いて来た。
義母は明日も片づけ仕事が残つているので泊つて行くことになつた。
房一はその時逸いち早く、横に寝かされている男の投げ出した手首に血がかすりついているのを、そして寝ながら立てている片足のズボンの膝のあたりにもどす黒い斑点の沁みているのを見てとつた。
練吉と房一は、川沿ひの路を、肩を並べて自転車を走らせていた。
「昨日、君とこの奥さんがバスに乗るところを見かけたが、――」
徳次はすつかり感心したとも、又その反対ともとれる云ひ方だつた。
「それからね」
「せんせいですか」
房一はふりかへつた。
その時、千光寺の住職がひよろ長い姿を現はした。彼はたつた今さつき剃そつたばかりのやうな青いつるつるな頭をしていた。今夜の主役だといふ意識がさうさせたのだらう、もつともらしい儀式ぶつた表情のまゝ、彼は集つた人達には目もくれずにまつすぐに仏壇の前に進んだ。だが、そのひきしめたつもりの口もとにはあの真白い偉大な反そつ歯ぱがのぞいていた。
「それあ、あんた」
読経がはじまつた。皆話をやめてその方を向いて坐り直した。
「それに、永い間この土地をはなれていたもんですから、土地の事情にもすつかり疎うとくなりましてね、これは一つ、どうしても今後こちらのお力にすがらないことには立つていけないと思つている次第ですが――」